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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)44号 判決

原告

ロヂ・ウント・ウイーネンベルゲル

・アクチエンゲゼルシャフト

右代表者

ウイリー・フリッカー

ヘルムート・シエルホルン

右代理人弁護士

ローランド・ゾンデルホツフ

右代理人弁護士

牧野良三

右代理人弁理士

田代久平

右復代理人弁理士

田代蒸治

被告

株式会社マルマン

右代表者

片山豊

右代理人弁護士

向山隆

弁理士

丹生藤吉

安藤政一

土橋秀夫

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

この判決に対する上訴のための付加期間を九十日とする。

事実《省略》

理由

(当事者間に争いのない事実)

一本件に関する特許庁における手続の経緯、本件特許発明の要旨および本件審決理由の要点が、いずれも、原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二本件審決を取り消すべき事由の有無について

1  前記当事者間に争いのない本件特許発明の要旨および〈証拠〉(本件特許発明の公報)によると、本件特許発明は、中空リンクおよびこれを互いに関節的に、かつ、伸延可能に結合し発条作用に抗して旋回し得べき結合リンクより成れる伸延可能なるリンクバンド、殊に腕時計用バンドであり、

(1) 中空リンクが任意の断面形の円筒状鞘10、11のバンド縦方向において互いに転位せられた二組により形成せられていること、

(2) 結合リンクがバンド縦縁中に設けられたU字形結合彎曲片14により形成せられていること、

(3) 該結合彎曲片は各二個ずつその一方の脚15をもつて一方の組の鞘10の開放端中に挿入せられ、その他方の脚16をもつて他方の組の転位して位置する隣接せる鞘11中に挿入せられ、かつ、各鞘中には結合彎曲片を鞘中に確保し、かつバンドの伸延あるいは彎曲に際し発条的に反対作用する彎曲板発条12が設けられていること、

をその構成の要件とするものであることが、明らかであるところところ、前掲甲第五号証の記載によれば、本件特許発明は、リンクバンドに極めて大きな伸張性および可撓性を有せしめることを発明の主たる目的とし、鞘、結合彎曲片および彎曲板発条の三部材を、彎曲発条の張力を利用して弾性的に関節連絡することによりこの目的を達したものであることが認められる。

2  他方、(イ)号考案の要旨は、審決の認定のとおり、「二つの中空角形が斜に続いて一体となつた形状を横断面形しバンド幅を長さとする帯素体1の多数を斜に重ね組合わせて並べ外層部2夫々の空洞内には板発条6を其の両端部にある作用面7が表側内壁に圧接する状態で挿入し別に同じ方向に2本の脚5のあるほぼコ形をした連結子の片脚5を外層部2の板発条6の作用部7と表側内壁との圧接する間にバンド両側から夫々差し込み嵌合し他の脚5を之に直面した位置の夫々の内層部3の板発条6の作用部7と裏側内壁との圧接する間に差し込み嵌合して成る伸縮バンドの構造」であるものと認められ、とくに「バンド幅方向を軸とし其の横断面形が……中空角形が斜に続いた一体となつたほぼ斜8形で其の中空部が全長を貫いた空洞である帯素体1で其のバンドの表側になるものを外層部2とし裏面になるものを内層部3とし両空洞内には夫々両端に作用面7のある板発条6を挿入し外層部2の表側内壁と板発条の作用面7との間に次に記すような形状連結子4の片脚5に嵌合するもので連結子4は……ほぼコ形をしたもので其の横断面が長方形平形で胴体部から同方向へ出た2本の脚が有り従つて残りの脚5は斜に重ねて並べられた隣りの帯素体1つまりバンド内側に重なつて居る内層部3空洞の外側内壁と板発条の作用面7との間に嵌合するもので同じようにして順次帯素体1の向い合いの外層部2と内層部3とをバンド両側から結合連結して一連のバンド帯を作るものである。

作用は各脚5が平常の時は各空洞の内壁と板発条の作用部7との間に挾まり其の胴体部はバンド両側に縦に並列した状態となつて居るものでバンドの伸張に従つて各外層部間及び内層部間は離れて連結子の胴体部は各脚部が板発条の圧力に抗して回動し斜の状態となり復元力つまりバンド収縮力は高められる。又伸張することを中止して自由を与えればバンドは収縮する。特に本考案では挿入の板発条も其の幅が半分となりバンド全長にあたり表裏ともコマ数が二倍になり板発条の数も二倍となりバンド帯が捻り状態になる時自在性を増し且円滑である。効果としては以上のようにひとコマの幅が表裏とも半分になつて而も一方向だけに連結子が斜のかたちをとるためバンドの曲り具合がすなおであつて、特に腕にはめはずしの時のバンド帯が捻り状態になる時従来の千鳥状に組合されて居るものよりも楽で而も具合がよい、又コマがほろいので肌ざわりもよい」旨の記載に徴すると(イ)号考案は、上下に斜に位置している中空角形を一体として構成している帯素体、板発条、および連結子の三部材を、板発条の圧力を利用して連結子の回動力によつて、バンドの収縮力を得るとともに、前記帯素体を伸縮バンドの構成要件の一つとすることによつて、バンドが捻り状態になる時、自在性を増し、かつ円滑にする等の作用効果をあげうるものと認めるを相当とする。

3  しかして、前説示から明らかなように、右両者の構成において、本件特許発明の円筒状態から構成された中空リンクに相当するものは(イ)号考案においては、本件審決の認定するように、上下の斜に位置している中空角形が一体となつて構成されている帯素体である。

4  よつて、本件特許発明の前記中空リンクと(イ)号考案の帯素体とが発明としての構成上相違するものといえるかどうかについてみるに、両者は、発明として、構造において相違するものと認めるのを相当とする。すなわち、

(1) 本件特許発明においては、

イ 中空リンクが任意の断面形の円筒状鞘10、11のバンド縦方向において互いに転位せられた二組により形成せられ、

ロ 結合リンクはバンド縦縁中に設けられたU字形結合彎曲片14により形成され、

ハ 結合彎曲片は、各二個ずつその一方の脚15をもつて一方の組の鞘10の開放端中に挿入され、その他方の脚16をもつて他方の組の転位して位置する隣接した鞘11中に挿入せられている

ことは、前記認定したところから明らかであるところ、

(2) 前掲(イ)号考案の要旨および前顕甲第五号証の記載によれば、(イ)号考案は、

イ 帯素体1は中空角形が斜に続いた一体となつたほぼ斜8形に構成され、

ロ 結合リンクは、二個の帯素体と二本の脚5のあるほぼコ形をした連結子4により形成され、

ハ 連結子4は、その片脚5を一方の帯素体の外層部2の表側内壁と板発条6の作用面7との間に鞘入され、残りの脚5を斜に重ねて並べられた隣りの帯素体の内層部3空洞の外側内壁と板発条の作用面7との間に嵌入されており、

ニ 帯素体の斜に続いている中空角形は転位することができないものである、

ことが認められる。

(3) 以上の事実によると、本件特許発明の前記中空リンクと(イ)号考案の帯素体とは、形状において著しく異なり、しかも、本件特許発明においては各円筒状鞘が相互に転位でき、二列よりなる中空リンクであるに対し、(イ)号考案においては帯素体における斜に位置した中空角形は転位することができず、一列の中空リンク(帯素体)であるという点において差異がみられる(したがつて、U字形連結子も、(イ)号考案においては、本件特許発明のそれよりも、数は半分である等の相違が認められるのみならず、その他にも(イ)号考案には特有の作用効果の存することは、前認定のとおりである。)。

(4) 叙上のとおりであるから、本件特許発明の前記中空リンクと(イ)号考案の帯素体とは構造およびそのもたらす作用効果において相違するものというべく、これをもつて、単なる設計上の微差ということはできないから、この点に関する原告の主張は採用しがたい。

なお、原告は、本件特許発明の技術的範囲について、原告主張のとおり解釈すべき旨主張するが、仮りに本件特許発明がいわゆるパイオニアパテントであるとしても、本件に提出された全証拠をもつてしても、本件特許発明の技術的範囲を、原告主張のとおり解釈、認定しなければならないものとすべき理由を見出すことはできない。

三むすび

以上説示したとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由として本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、結局、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとし、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条第百五十八条を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 石沢健 奈良次郎)

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